民法改正と不法行為の損害賠償請求権の時効について
前回、民法改正と債権の時効について書きました。
債権とは、契約など何らかの法律的な関係に基づいて、ある人からある人へ請求できる権利のことをいいます。
一般的には、お金を貸したにもかかわらず返してくれない、物を売ったにもかかわらず代金を支払ってくれないといった、いわゆる債務不履行の場合が想定されます。
そのようなケースでは、お互いに何らかの約束があり、それが守られないという形になっています。
ところが、それとは異なり、交通事故のように、お互いに何らの約束がないところに、債権債務が発生することもあります。
その場合について、民法は不法行為による損害賠償請求権として定めています。
交通事故に限らず、人から殴られた、物を盗まれたといった、一般的に犯罪行為になるようなケースは不法行為にあたります。
不法行為の損害賠償請求権については、前回述べた債権の消滅時効とは別に定めがあり、従前から、①損害及び加害者を知った時から3年、または、②不法行為の時から20年と定められています(民法724条)。
つまり、損害及び加害者を知った時から3年で損害賠償請求権が時効にかかるとされています。
ところが、令和2年4月1日に施行された民法の改正により、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、上記①について、損害及び加害者を知った時から5年となりました(民法724条の2)。
ここでいう「人の生命又は身体を害する不法行為」とは、例えば交通事故の人身事故や、傷害事件などです。
これら人の生命又は身体を害する不法行為については、損害及び加害者を知った時から3年だった時効期間が、5年に延びたのです。
(なお、724条後段も、不法行為の時から20年とされていたものが、20年間行使しないときと、微妙に変更されています)
しかも、通常は、新しく施行された法律の適用は、施行日以降の事件に適用されますので、令和2年4月1日施行の場合、新しい時効期間は、令和2年4月1日より後の不法行為について適用されるように思われます。
ところが、これについては改正時に附則が付けられています。
附則35条2項によると、「新法724条の2の規定は、不法行為による損害賠償請求権の~時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合には適用しない」と規定されています。
つまり、令和2年4月1日の時点で時効にかかっていない、人の生命身体に対する不法行為については、時効期間が5年になるということです。
具体的にいうと、例えば平成30年4月1日に人の生命身体に対する不法行為があり、損害と加害者をすぐに知った場合、時効にかかるのは、従前の民法では3年後の令和3年4月1日でしたが、今回の改正によると、5年後の令和5年4月1日になるということです。
この例の場合、従前の民法では、今(令和4年1月27日)から訴訟を提起しようとしても、すでに消滅時効にかかっていることになりますが、改正によって、今からでも訴訟提起ができることになりました。
民法は長年改正されていなかったので、不法行為の時効は全て3年と思い込んでいる方もおられるかもしれませんが、今回の改正により、5年に延びた部分もあることを知っておいていただければと思います。