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相続における死亡保険金と遺産への持ち戻しについて②

前回のブログにおいて、相続における死亡保険金と遺産への持ち戻しについて、一般論を述べました。

原則として受取人指定の死亡保険金は遺産にカウントされないが、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、死亡保険金を遺産に持ち戻すように命じるのが最高裁判例の考え方です。

その明確な基準は示されていませんが、一般的には、保険金の金額が遺産全体の評価額の半分を超えれば持ち戻しが命じられる可能性が高いと言われています。

 

ところが、近時、遺産全体の評価より死亡保険金の方が大きい金額にもかかわらず、持ち戻しを否定した、すなわち、死亡保険金を遺産にカウントしなくてよいとした裁判例が出ました(広島高裁令和4年2月25日決定)。

 

その事案では、遺産分割の対象が預貯金等の459万円(ただしそれ以外に引き出された預貯金313万円あり、使途について争われている)であり、死亡保険金等の金額が2100万円でした。したがって、仮に引き出された預貯金等が残っていたとしても、遺産全体の金額より死亡保険金等の金額の方がはるかに大きい事案です。

法定相続人は被相続人の母親と妻で、死亡保険金等を受け取ったのが妻です。被相続人の母親から、妻に対して、死亡保険金等を遺産へ持ち戻すように求めました。

 

それぞれの生活状況ですが、被相続人の母親は、被相続人とは長らく別居して生計も別にしており、自身の夫の死亡後、夫の不動産を相続して被相続人以外の子2人と生活していました。

他方、被相続人の妻は、被相続人と長らく同居生活を営んだ上で結婚し、被相続人が死亡するまで専業主婦であり、子がいませんでした。

裁判所の判断は、被相続人と妻との同居期間、婚姻期間、生計の状況などから、本件死亡保険金は被相続人の死後、妻の生活を保障する趣旨のものであること、夫婦間の一般的な生命保険金と比べてさほど高額とはいえないこと、それに対し、被相続人の母は夫から不動産を相続し、子2人と同居していることなどの事情を考慮した上で、不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存するとは認められないとしました。

 

したがって、死亡保険金の持ち戻しの有無につき、死亡保険金の金額の大きさは重要な要素ではありますが、実際の判断においては、本件のように、金額以外の事情も総合的に考慮した上で、相続人間に不公平が是認できないほどに著しいものかどうかを判断しています。

特に本件は、死亡保険金等の金額が遺産全体の金額と比較してはるかに大きいにもかかわらず、金額以外の要素も含めて総合的に考慮した結果、持ち戻しを否定しています。

事案的にはやや特殊な部類に入るものかと思いますが、興味深い裁判例といえます。